A Modest Scream _ The MassTokyo2020.11.21 - 12.27

• A Modest Scream | ささやかな叫び

  この展示に考えを巡らせ､制作に取り組んでいる間､私は白いガーゼにくるまれているようだった｡2020年の春以降世界中で起こった閉鎖的な状況｡昨年から続いていた体調不良の末､腸の腫瘍を摘出したりと決して明るくはない時期｡

  思い出す｡
  ヨーロッパ在住の友人に安否の確認も兼ね､制作のための証明写真を依頼したこと｡そのメールの返信の最後に記されていた､

  あなたも私も､きっと大丈夫｡ Stay safe.

  という言葉がくれた静かな勇気を｡遠い地で､少し控えめに日々を過ごす友人の姿を思い浮かべることの安堵を｡人は今見えていない部分を想起することで形作り､人はその触れ得ない部分を想うことで愛撫する｡約束をする事で少し先を担保し､信じることで､今を､私自身を引き受ける｡私の見えていないところでも世界は変わらずに在り続け､遠くにいるあの人も無事に生きている｡今ここから知覚し得ない部分を在る､在り続ける､と信じる事で私たちは安定した日々を過ごしている事を知った｡

  私　他者  痛み（限りなく快楽に近い）身体　治癒

  本展示が決まった際にノートに記したもの｡これらの言葉が作品の見方を一方的なものに追いやって欲しくはないが治癒という言葉にもある通り､希望の念をもとに思考を重ねた｡そして身体の回復を実感しながら､治癒という営みがいつも秘めている強烈さを感じながら1枚1枚の絵を描いていく毎に､傷つきやすい襞やくぼみだらけの存在を大事に包んでいる何かに触れた様な気がする｡

  か弱くて繊細な光､絶えずこぼれ落ちるもの
  生きているという事実による輝きや肌触り
  描くことの､身体の祝福｡
  最後まで決して手離してはいけないもの｡

  この展示を介して出会う方々にも､生きていく上での､もしくは絵画自体が抱え込んだ ”ささやかな叫び” を感じてもらうことができればと願っています｡